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羅生門で書く読書感想文 文例

芥川龍之介著「羅生門」の読書感想文の文例です。



羅生門 蜘蛛の糸 杜子春 外十八篇 (文春文庫―現代日本文学館)
羅生門 蜘蛛の糸 杜子春 外十八篇 (文春文庫―現代日本文学館)




羅生門、蜘蛛の糸、杜子春など、その他18の作品が収録されている短編集です。


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暗かった。時代も暗ければ、舞台も暗い。下人を取り巻くなにもかもが暗く感じた。


下人は雨がやむのを待っていた。でも、主人に暇を出されているから、雨がやんだところですることもない。しかし、下人にとってはこの雨は心の中にも降り続けていたと思う。飢え死にはしたくない。しかし……。そのあとを考えると、もう盗人になるしかないことになる。それじゃあ仕方がないと、潔く盗人になるなり、強盗になるなりするような人間なら、ある意味救われたのかなとも思う。盗人になることを即決できない下人の心のうちは、いつやむともしれない雨が上がるのを待つという動作とリンクしていた。ぐるぐると回る思考。飢え死にしたくはない、かといって盗人になる決心もつかない下人は、柱にとまる蟋蟀と同じくらい小さな存在だった。


羅生門は荒れ放題に荒れていて、門の上には捨てられた死体ばかりが転がっていた。ひとつ間違えば、下人だってそうなる可能性が大きい。きっとその時代には、名もなき死体になることの方が普通だったのだ。


下人には生きることに対する力というか執念というか、そのあたりがほとんど感じられなかった。消去法で生きることと死ぬことすら多分このときの彼にはできなかったのだと思う。このときの、盗人になりたくないという下人の気持ちが善なのか悪なのかと考えると、とたんに私の思考が止まってしまった。今度は私の思考がぐるぐると同じ場所を回っていた。


死体の髪を抜く老婆を見た時、下人に最初に起こった感情は嫌悪なのだと思う。どうしてもそういうものは許容したくないという下人の心が、老婆を問いつめるという行為に出たと思えた。決して悪に対する正義感ゆえに老婆を問いつめたわけではなかろう。


蛇を干したものを、干魚だと偽って売っていたことは、悪いことだけれども、そうしなければ生きていけないのだからしょうがない。自分もこの死んだ罪人の髪を抜いて鬘にしなければ生きていけないのだから、自分のしていることは許容されうるのだという老婆の主張は、まさに我田引水的な正義論であり、そしてとても幼稚な考えだ。悪を裁くのが正義ならばなんとなく話も分かるのだが、老婆の行為は悪の所行の上に悪の所行を重ねていっているだけのことだ。まるで悪の次に来るのは正義に決まっているから、罪人の髪を抜く行為は正義だと言っているかのような老婆に嫌悪感に似た吐き気を覚えた。


しかし……、果たして自分がその場にいたらどうなのか。多分、下人のように逡巡すると思う。罪悪をなしたくないから私は餓死を選ぶ、と声高に宣言する勇気を私は持ち合わせていない。ならば下人は私の化身なのだろうか。下人と私の差異はいったいどこにあるのだろうか。なんども私は考えた。分からないのでそこまでの部分を何度も読み返すことになった。もしかして、行くことも退くこともできないのだろうか、という考えに到ったのは、果たして何度読み返した頃だろうか。


下人は結局追い剥ぎになることを選ぶ。自分もそうしなければ生きられないのだから仕方ないと自分を正当化し、老婆の衣服を奪う。これは老婆がしたのと結局は同じ行為だ。羅生門の作者は一連の出来事になにも判断を下していない。たとえ悪事をなそうとも、それが「生きるため」という大義名分があれば正当化されるのだろうか。


いったい正しいということは何なのだろうと考えているうちに、うっすらと思い浮かんだことがある。それは善と悪が重なっているのかな、という考えだった。


下人がしたことは多分正義的なものではないだろう。しかし、下人に対して、いったい誰が「飢え死にすることを選べ」と命令できるのだろうか。飢え死にすることを選ばずに、追い剥ぎになったお前は悪者だな、と正々堂々と言えるならばまだいい。しかし私はどうしてもそう言い切れないのだ。下人に対して「飢え死にしろ」とはどうしても言えない。偽善的なことを言いたくないからという心情をくみしても、なぜ言えないのか説明がつかない。


下人の行方は、だれも知らない。ただ、そのあとにも下人と関わりを持つ人間が出てくることだろう。それはずっとずっと果てしなく続くに違いない。いつか下人が死んだとしても、やはり下人の死を踏み台にして生きていく人間が出てくるかもしれない。


下人が姿を消した時、そこは闇だった。黒洞々たる夜があるだけだった。そこにあるのは短い白髪を逆さまにして門の下を覗きこむ老婆だけだ。黒と白。それは相容れないものなのだけれど、人間がいつも重ねて持っているものなのではないのだろうか。あるときは黒になり、あるときは白になり、というように。


いや、重ねているのではなくてもしかしたらこれは一体なのかもしれない。それがあるときは黒く映り、あるときは白く映る。あるときは罪悪に映り、あるときは正義に映るというように。


そして、短い白髪だけが残された闇はたんなる夜ではないのではない気がしてきた。この黒洞々たる闇こそがこの世の中なのではないだろうか。黒洞々たる闇こそが人間をとりまく世界であり、人間のなかにうごめいている得体の知れない黒と白の正体なのではなかろうかと思い当たった。

読書感想文の書き方

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