表紙に惹かれて、それまで太宰の「だ」の字にも興味を示したことのない人たちが、人間失格を題材として読書感想文を書きたがる気持ちは分かる。
購入動機の善し悪しは別にして、文学作品を読むことは大変よいことである。
改めて言っておく。太宰治
たしかに自伝的要素は見受けられるし、私小説的な要素も見受けられるかもしれない。
しかしながら、あくまでも小説である。しかも小説の構造としては、「入れ子」になっている。
まず、この人間失格という作品で読書感想文を書こうと思ったら、太宰の個人的な過去とかバックボーンはとりあえずおいておこう。
ふつうの小説として、文学作品として、夏目漱石や、芥川龍之介の作品を読むときと同じように読もう。
それと、これはあくまで個人的な意見なのだが、高校生ならばともかく、中学生がこの作品で読書感想文を書くのはかなり難解だと思う。そもそも、作品を読み込めないのではないかという疑念がある。このあたりは、個人的な読解能力によるので、一概には言えないが。
とりあえず、太宰治の人間失格という作品で読書感想文を書く際のポイントとなる事項を以下にあげていく。
あくまでもこれは私感なので、すべてが正しいというわけではない。
そのあたりの、完璧な正しさを求めるならば、太宰治の研究をしている学者の書籍なり、サイトなりを参考にしていただきたい。
ポイント1
人間失格という作品は「入れ子」構造になっていると先述した通り、登場人物の「私」が「葉蔵」の書いた日記を読むという体裁をとっている。そして、その日記は「葉蔵が出入りしていた店の女主人」のところに送られてきたものである。
ポイント2
葉蔵の日記自体は3部構成になっている。
第一部幼年時代
第二部中学時代から高等学校時代にかけて
第三部高等学校を追放されたあと
ポイント3
第一部の幼年時代について
「恥の多い生涯を送ってきた」という有名な言葉から始まる。
いったいなにが葉蔵にとっての「恥」だったのか。まず、それを考えながら読んでいく。
そして、裕福な家庭に育った葉蔵は「空腹すら知らなかった」幼年時代を送るのだが、彼にとっては人間の営みというものがよくわからない。
いってみれば、自分の幸福の観念と、世の中の幸福の観念が食い違っているとでもいえばよいのだろうか。そのことに大変な不安を持つのである。
不安というのは、内容はどうであれ子供がよく持つものであるが、ワーッと遊びに出てしまうと忘れてしまうことが多い。
しかし、葉蔵の不安はそんなものではなく、その不安のために夜も眠れず気がふれかけるようなものである。
ポイント4
不安と恐怖は幼年時代の葉蔵をおびやかす。葉蔵はなんとかそれから逃げようと、その方法を考える。
そしてその方法が「道化(どうげ)」であった。道下師といえばピエロのことである。つまり、おどけた楽天家として、ときには変人として行動することにする。
しかし、それは「装って」いるものであるから、イコール人を欺いていたわけである。
ちょっと、そのあたりのことを考えてもらいたい。
子供が、不安と恐怖にさいなまれ、ピエロとして朝から晩まで人を欺いている。どう考えても普通ではない。普通であれば、どこかでほころびが出るか、ピエロを演じる事自体に疲れたり、かなしくなったりはしないだろうか。
しかも、作品を読み続ければ分かるが、ピエロとして振る舞ったのはどうも幼年時代だけではないようなのである。
ポイント5
中学に入っても相変わら道化を続けていた葉蔵だが、その葉蔵に一大事件が起こる。
それまでだれにも見破られなかった、親兄弟にも見破られなかったのに、葉蔵の道化を見破る人間が現れるのである。
しかも、決して賢いとか利発とはいえない竹一という少年だった。
このときの葉蔵がどれくらい恐怖に打ちひしがれたか、それを考えてみることは重要である。
葉蔵は「震撼」という言葉を使って、そのときの気持ちを表している。この「震撼」の言葉の意味は重い。国語辞書に載っている意味以上のものがあると考えられないだろうか。
葉蔵は自分の道化を見破った竹一を避けるどころか、逆に近づいて手なづけてしまう。
この行動の意味は何を示しているのか。それを考えてみよう。
ポイント6
上京し、高等学校に入学した葉蔵は、画学生の堀木と知り合う。堀木とはかなり長い付き合いになる。
しかし、堀木はどうも葉蔵を利用価値を見いだしただけで、けっして友人ではなかったと思われる。
このあたりから葉蔵の人生が下り坂になっていくような気がするのだが、それと堀木には関係があるのかないのか、そのあたりも読み込んでみよう。
ポイント7
第三の手記
事件を起こした葉蔵は高等学校を追放になってしまう。家からも勘当されてしまう。
堀木の下宿で、シヅ子という子持ちの雑誌記者の女性と知り合い、一緒に暮らし始める。
シヅ子の娘にも葉蔵はなつかれ、「おとうちゃん」と呼ばれるような関係になるのだが、あるとき幼いシズ子の娘は悪気もなく本音を言ってしまう。
幼女には悪気がないから、その言葉は大変に重い。
ポイント8
シヅ子たちの生活を壊してしまうのではないかと思った葉蔵は、シヅ子のアパートを出て、行きつけの店の女店主のところに転がり込む。
そこで、雑用などをこなしながら、漫画のようなものを書いて生活していた。
店の向かい側にはヨシ子という看板娘のいる店があり、縁あって、ヨシ子を内縁の妻にする。内縁というのは、役所に届けを出さず、法的な籍を入れずに夫婦として暮らすことである。
ヨシ子は人を信じる天才だった。人間の悪意など彼女の頭の中には存在しないようである。
葉蔵はこまごまとした漫画を書きながら、糊口を凌いでいたので、出版社の人間が家に出入りすることもあった。
ある日、堀木が葉蔵を訪ねて来、二人でアパートの屋上にいって夕涼みをしている間、部屋にある出版社の男性が訪れた。
「ヨシ子が空豆を煮ている」という言葉を葉蔵から聞き、空豆をとりに部屋におりていった堀木は、出版社の男性とシヅ子との衝撃的な場面に遭遇してしまう。
しかも、それを止めに入るではなく、葉蔵をわざわざ呼びにいったため、葉蔵もそれを目撃することになる。
結局、それが引き金となって、葉蔵の生活は乱れ、再び事件を起こす。
堀木と、葉蔵の父が議員であったときの太鼓持ちをしていたヒラメとよばれる男性によって、葉蔵は入院させられてしまう。
ポイント9
「人間、失格。もはや、自分は完全に、人間でなくなりました。」という、これまた有名なことばで葉蔵の手記は終わっていた。
葉蔵は今も病院で療養生活を送っている。
「私」は店の女主人からこの手記を見せられて読んだのだ。
しかしながら、女主人は葉蔵のことを「神様みたいないい子でした」と表現するのだった。
ポイント10
この作品の論点をあげるとすれば以下のようになるだろう
1「世間」とはなにか
2 なにを以てして「人間失格」というのか
3 葉蔵は「人間失格」なのか
4 葉蔵は特別(異常)な人間なのか
5 女主人の「神様みたいな子でした」という言葉の意味
6 「恥の多い生涯」の「恥」とはなんなのか
この6つの論点を(もしくはこのうちのいくつかを)柱にして、読み込み、気がついたところをメモしながら読んでいくと、自分の「感想」というものが浮き上がってくると思う。
ただ、何度も言うけれど、作品としては中編くらいの長さだし、それほど読みにくいわけではない。
だからといって、一度読んで自分の考えをまとめるのは至難の業だと思う。
気になったところだけでも何度か読んでいると、だんだん霧の中から作品の本質が浮き上がってくるのがわかると思う。
そこまで分かれば、すくなくとも「ヤバい作品」「危ない作品」などという感想は出ないと思うのだが……。いかがなものだろうか。
私個人としては、過去の価値観がゆらぎ、圧倒されるくらいの偉大な作品だと思っています。
これほどの作品に巡り会ったことを幸運に考えて読んでみてください。
私のこの記事を最後まで読めた人ならば、大丈夫、すくなくとも及第点の読書感想文は書けます。
書籍紹介
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マンガ版も集英社インターナショナルから出版されているのですが、これだけを読んで読書感想文を書いたところで、採点する先生にはばれてしまうでしょう。
読むにしても、参考程度、あるいはちゃんとした文章を読む前に、ざっと筋をとらえるために読むくらいでちょうどいいでしょう。
| 人間失格 (まんがで読破) | |
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