これは、「低賃金の労働者」という意味だそうで、おそらく和製英語と思われます。
このワーキングプアというのはまさしく小林多喜二の蟹工船改版に登場する労働者と同じではないか!!という論議があり、書店では蟹工船の文庫(新潮社版)が大々的に宣伝されています。
私はこのような現象を全く知らずに書店で乱立する文庫蟹工船を見て、いったい日本に何が起こったのだ!?と驚愕してしまいました。
昨年の同時期にはこんな現象はありませんでしたし、むしろ「読書感想文を書くために、蟹工船をぜひ読みたいと思う学生はまず少数派であると思うし、現代社会に照らし合わせて、教養の面をのぞくとプロレタリア文学というものに多大な興味を示すことも少ないだろう」と言ったような紹介文を読んだ記憶すらあります。
マンガ版の蟹工船も出版されていますが、もちろん、蟹工船を読むなら小説版を読むべきです。
ただし、最初にあらすじをとらえる目的でマンガ版を読むのはよいでしょう。
しかしながら、本気で蟹工船の読書感想文を書くつもりならば、絶対に小説を読まなければとらえられない部分があるのです。
それは労働者の悲惨さです。
マンガの方でも労働者の悲惨さは必ず書かれているはずです。
しかしながら、ビジュアルというのは大変に美しいのです。
絵はきれいすぎるのです。
小説をよみ、そこに出てくる労働者の悲惨さを自分の頭の中でイメージしない限り、蟹工船の読書感想文を書いたとは言えないでしょう。
職が欲しくて就職斡旋所(口入れ屋など)に行くのに、なんだかんだと引っ張り回されて、蟹工船に乗り込んだときには「借金ができている」労働者。
職にありつくために「借金するはめになる状態」、しかもそれが普通、そんなことは現代では考えられないでしょう。
仕事がつらくて逃げ出そうとする若者。見つけたら手ぬぐいなどが支給されてることをどうどうと書き出した張り紙。
見つかった青年は、泣き声も出なく、顔が土気色になるまで便所に閉じ込められる折檻。
食事は極貧を極め、時化のときは汁物も支給されずぽろぽろの飯だけ。同船の管理者はきちんとした食堂で、きちんとした食事をとっているのに。
栄養状態が悪いために続々と脚気になる船員労働者。
雑夫として乗り込んでいるのは、労働運動などという言葉は聞いたこともない東北地方寒村の「品行方正な少年」たち。
そして、大人の船員労働者と雑夫の少年のねじれた関係。
みんな「素直な」人間だ。それは大人も少年も変わりない。自分たちの乗っている蟹工船の脇を護衛するように進んでいく大日本帝国の美旗を掲げた船が、自分たちをロシアから守ってくれるために存在するのではなく、自分たちを監視しているのだということにも気づかない素直な人間たち。
その人間たちの食事は貧しく、労働時間は長く、最初は一日おきだった風呂が、ひと月に一回にされるような不潔な状態におかれているのである。
しかもそこには、錦の御旗がある。
「蟹工船はただの缶詰作りの船ではなく、ロシアと戦っているのだ。だから、すこしのことで不平を言ったりしてはいけない」
しかしながら、だんだんと自分たちの状況に気づいていく労働者たちがそこにいた。
てっきり波にさらわれたと思った蟹漁の小舟は、実はロシア領の村で助けられたのである。
「社会主義は怖い。よくないものだ」と日本で叩き込まれた難破者たちを土地の人は優しく世話する。
「いったいどういうことだ?」という疑問につけ込むように片言の日本語を話す中国人がロシア人の言うことを通訳し、それを最初は疑い深く、そして最後には「そうだ!そうだ!」と賛同してしまう。
社会の底辺にいる蟹工船労働者にとっては、プロレタリアというものの説明をされているうちに、「まったくその通りだ」と納得してしまうのである。これが日本で禁じられている「赤化(せきか)」と呼ばれるものだというのは、うすうす気づいている。
彼らは再び蟹工船に戻り、ロシア人に助けられたとき、どのような話を聞いたか仲間に事細かに話して聞かせる。そして、みなその話を熱心に聞く。ひとり、船頭だけはそれが「赤化」であると分かっていたので、それとなく注意するが、反対に労働者たちに脅される始末だ。
そして時期が来ると労働者は立ち上がる。
労働者が勝った。かに思えた。
しかしそのとき近寄ってきた大日本帝国の美旗を掲げた船は、自分たちを助けるために来たのではなく、労働者の代表者を逮捕するために来たのだ。
このとき初めて信じるものは自分たちだけだと再確認した蟹工船労働者たち。
彼らはもう一度立ち上がる。
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どうもこの蟹工船の労働者と現代の派遣の従業員を同一視するような傾向があるらしいが、はたしてそうだろうか?
それではあまりにも浅はかな知恵だと思う。
労働基準法があり、労働基準監督署があり、厚生労働省があり、裁判所がある現代の日本と、当時ではまったく労働者の意識は違うだろう。
「ワーキングプア=賃金が低い」という等式が成り立つにしても、賃金が低いことのみをとりあげて、「ワーキングプアの原点は蟹工船の労働者と同じだ」などとはいえない。
小林多喜二は綿密な取材をして、この蟹工船を書いた。そういう面では限りなくノンフィクションに近いフィクションだと私は解釈している。
小林多喜二が蟹工船を書くにあたって取材したのは「蟹工船」であり、他の悲惨な状況におかれている労働者たちすべてを取材したわけではない。
地下活動をしていた彼だから、さまざまなプロレアりアートの知識は持っていただろう。それらが蟹工船という小説の内部に生かされているとしても、短絡的にとらえると、読書感想文全体が底の浅いものになってしまう危険性があることに留意すべきであろう。
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追記 蟹工船は教科書でも扱うことの少ない、つまり触れる機会が極端に少なくなったプロレタリア文学です。しかしながら、小説自体はそれほど長いものではありませんし、昔独特の漢字仮名遣いもそれほど難解ではないので読みやすい小説の部類ではあると思います。


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